シローせんぱいのこと。
「……、」
教室を出て、ひとり渡り廊下を歩きやってきたのはいつもと同じ音楽準備室。
ドアの前で、わたしは大きく息を吸い込む。
緊張、する。けど言う、伝える。
……よし。
バクバクとうるさい心臓をおさえ、そっとドアを開けた。
すると、そこに広がるのは部屋の窓際には揺れるカーテンと開けっ放しの窓。ベランダに座る、後ろ姿。いつもと変わらない光景。
「……シロー、せんぱい」
「……えな?」
小さく名前を呼ぶと、シローせんぱいはこちらを振り向き少し驚いたようにわたしを見た。
「うわ……びっくりした」
「うわって……失礼ですよ」
「だってここ何日か来なかったから。もう来ないのかと思った」
来なくても、追うことはない。どうして来なかったのか問い詰めることもない。
それらの現実に少しへこんでもしまうけれど、この場所の、お昼休みという一時間でつながっているだけなのだという自分の立場を実感する。