シローせんぱいのこと。



「……俺さ、去年のクリスマス最悪だったんだよね」

「へ?」



すると目の前では、シローせんぱいがブルさんを抱いたまま口をひらく。



「せっかくのクリスマスなのに補習だし。ずっと好きだった相手といきあって、ラッキーと思って告白したら、フラれたし」

「え……?」



ふられ、た?去年のあの日、クリスマスに……?



「あーもう、どうでもいいと思って帰ってたら、女の子がひとりでうずくまってるの見つけちゃってさ。面倒くさいと思ったけどほっとけなくて声かけたら、『犬探してる』って半泣きで」

「あ……それ、」

「あんまりにも悲しい顔するからさ、こっちも必死に探しちゃったよ。こんな自分でも人の役に立てたら、少しは気持ちもラクになるかもとか、思って」



吐き出す息は白く、イルミネーションに溶けていく。チカ、チカ、と点滅するライトは、まるでリズムをきざむように。



「犬が見つかって、そしたらその子が大泣きして、かと思えば笑って……コロコロ変わる表情が、可愛かった。あの日の笑顔が、離れなかった」



優しいその目は、しっかりとわたしを見つめる。



「今日もここにいたら会えるんじゃないかと思って、待ってた。気持ちを伝えたくて、あの日の女の子を待ってた」

「きも、ち……?」



頷く彼の唇から、伝う言葉は



「えなのことが、好きだよ」




『好き』

胸の奥、なによりも大きく響く。



< 90 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop