シローせんぱいのこと。
「……俺さ、去年のクリスマス最悪だったんだよね」
「へ?」
すると目の前では、シローせんぱいがブルさんを抱いたまま口をひらく。
「せっかくのクリスマスなのに補習だし。ずっと好きだった相手といきあって、ラッキーと思って告白したら、フラれたし」
「え……?」
ふられ、た?去年のあの日、クリスマスに……?
「あーもう、どうでもいいと思って帰ってたら、女の子がひとりでうずくまってるの見つけちゃってさ。面倒くさいと思ったけどほっとけなくて声かけたら、『犬探してる』って半泣きで」
「あ……それ、」
「あんまりにも悲しい顔するからさ、こっちも必死に探しちゃったよ。こんな自分でも人の役に立てたら、少しは気持ちもラクになるかもとか、思って」
吐き出す息は白く、イルミネーションに溶けていく。チカ、チカ、と点滅するライトは、まるでリズムをきざむように。
「犬が見つかって、そしたらその子が大泣きして、かと思えば笑って……コロコロ変わる表情が、可愛かった。あの日の笑顔が、離れなかった」
優しいその目は、しっかりとわたしを見つめる。
「今日もここにいたら会えるんじゃないかと思って、待ってた。気持ちを伝えたくて、あの日の女の子を待ってた」
「きも、ち……?」
頷く彼の唇から、伝う言葉は
「えなのことが、好きだよ」
『好き』
胸の奥、なによりも大きく響く。