彼氏と思っていいですか?
お風呂場に向かう深雪に声をかけて家を出るところで、父とばったり顔を合わせた。
「なんだ、今から出かけるのか」
「ん、ちょっと買い物に」
実は今朝の深雪の言葉が気になっていた。
『だめじゃん。迎えに来るってわかってたんなら、お弁当、彼氏のぶんも作っておかなきゃ』
作ったほうがいいかな、と思いはじめていた。
別に苦じゃないし。お弁当なんて、四つ作るのも五つ作るのも一緒だし。
なにより、朝陽くんの驚く顔が見てみたい。
そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。
鶏のから揚げだったら嫌いな人はいないはず。
もし好みじゃなかったとしても、次はがんばるねって言えばいい。
ついでに好きなおかずも聞けたらいい。
というわけで、まずは買い出しに行くことにした。
「車、出そうか」
「いらない。すぐだから自転車で行ってくる」
過保護なんだから、と父のそれ以上の絡みを逃れるように自転車を出した。
二十時をまわった空は思ったよりも暗かった。
もう九月だ。夏の終わりを意識させられた。