彼氏と思っていいですか?
重ねた食器を手に、妹の深雪(みゆき)が私の脇をすり抜けた。
「お姉ちゃんのこと待ってたんだよ、あの人。お姉ちゃんてば、お弁当作るのに夢中で、声かけても気づかないんだもん」
だからお母さんが気を利かせて上がって待っててもらったの、と深雪はさらに続けた。流し台で食器を洗いながら。
「私、そんなこと頼んでない」
水音でかき消されるとは思いつつ彼に聞かれないようにと小声で言う私に、深雪は冷たかった。
「だめじゃん。迎えに来るってわかってたんなら、お弁当、彼氏のぶんも作っておかなきゃ」
深雪に倣ってうしろを振り返る。
リビングのソファには八分の一にカットされたリンゴを楊枝で刺して、のんきにむしゃむしゃやっている山内朝陽(やまうちあさひ)くんの姿があった。
迎えに来る? そんな話、した?