彼氏と思っていいですか?
あのね、と私はつっかえつっかえ話しだした。
見ているだけでいいという感覚を言葉で伝えるのは難しい作業だった。
「調理室からグラウンドがよく見えるの。部活でお料理しているといっても、オーブン使ったり、蒸し器で蒸したり、冷蔵庫で固めたり、ちょっとした空き時間ってあるから、洗い物や片づけをしつつ、なんとなく眺めていたんだ。新入生ならともかく、私たちもう二年生で、はじめの頃にあった緊張感なんてもうなくって、だから他に目が行くわけで。天気のいい日に元気に動いている人たちを見て、あー今日もやってるなーって。もうそれは自分の部活の風景の一部になっていて」
背格好で判別できない人たちだったのが、次第に見分けがつくようになった。
全員じゃない。ある特定の人だけ、目で追うようになった。
サッカーをやっているときの姿形がきれいに思えた。
好きという気持ちで動いているのがぐんぐん迫るように伝わってきた。
彼の活躍でこちらの口元が緩んだし、それを調理部の人たちに見つからないようにするのに苦労した。
九月の残暑のなかにも夕方には少しだけ冷えた風の心地よさがあるように、グラウンドを駆ける集団のひとりが際だって素敵に感じられたということ。
私には特別に映ったということ。