彼氏と思っていいですか?
「約束はしてなかったよ」
通学鞄にお弁当を詰めて学校の支度を整え、靴を履いて家を出るなり聞いた私に、朝陽くんはしれっと言った。
「そのほうが紗菜も驚くと思って。驚く顔が見られるかと思って」
だけど、とそこで笑みを含ませる。
こちらをのぞきこむようにして。
この仕草に私はとても弱い。
なにを言われてもどきどきしてしまう。
「おれが来たことも、リビングに案内されたことも、まるで気づかないんだもんな」
「ごめんなさい」
謝ったほうがいいよね。これ。
腑に落ちなかったけど言っておくことにする。
勝手に家まで来たのは朝陽くんだけど、私のほうが悪いことになっている。
約束なんてなにもしていなかったのに、あたりまえの顔をして我が家の玄
関先のチャイムを押したものだから、今こうして並んで一緒に登校している。
変なの。
でも、彼と過ごすということは、こういう意外性の連続になるのかもしれなかった。
『予測不能』は朝陽くんの専売特許だ。
考えが人のほんの少し先をゆく。
親しく話せるようになったのが最近ということもあって、私は驚かされてばかりだった。