彼氏と思っていいですか?
「友達が告るところを見たことはある?」
「ないかな」
「うん。俺もだ」
私が慎重に答えると、俺もなかった、と朝陽くんは言い直した。
今、私の隣にいるのは朝陽くんだ。
なのに、これまでの幹仁くんとのやりとりが、否応なしに思い出される。
『お礼とか、そういうの気にしなくていいよ。ほんとは受け取りたいとこだけど、朝陽を差し置いてそれって……ねえ?』
『好きだって言っちゃえば』
『言って、うまくいかなかったら俺んとこにくれば?』
それに、私の作ったお弁当を朝陽くんが口にするように仕向けて、
『よかったね』
屈託なく笑みを寄せてくれた。
自分の想いよりも友達を選んで。
今更ながら胸が痛んだ。
ううん、今だからこそ痛むんだ。
あのとき、笑顔の裏にそんな想いが隠されていたなんて知らなかったから。
視界が揺らぎ、白く霞がかっている。
あ、私、涙目になってる。
……泣いてるって、気づかれないようにしないと。
「非常階段のとこにふたりが行くのが見えたんだ。あれっと思って、次は移動教室なんだから歩きながら話したっていいのにとちらっと思って、それで」
「……うん」
「あとをつけるつもりも立ち聞きするつもりもなかった」
「……そうなんだ」