彼氏と思っていいですか?
帰り支度が整うと、追い出されるように生徒玄関へ連れて行かれた。
額には依然として熱取りシートが貼りついたまま。
傍らには先輩方がいる。
何気なく前髪をいじるだけで、
「まだ貼ったばっかじゃん!」
「剥がしちゃだめだよ」
「そうだよそうだよ」
と声が飛ぶ。
いいかげん、取ってしまいたいのに。
こうなってくると、シートの数時間もの長い効き目がうらめしい。
貼ったままの外出は医薬品会社も想定していないだろうから、文句を言われる筋合いはないだろうけど。
誤った処方をしているのはこっちだけど。
「紗菜ちゃん、具合悪いときに格好なんて言っていられないんだよ」
熱取りシートをくれた先輩に至っては、お母さんみたいなことを言い出す始末。
なんで私、叱られているんだ?
先輩方、わかってて面白がって言ってるんじゃないよね?
そこに通りかかったのが運動部の男子生徒の一団だった。
「お、料理部じゃん」
「料理部なんてあったの? あれ、料理……調理……?」
「どっちでもいー。大差ない!」
「あはは」
「なにしてんの? いじめ?」
「だめだよー、上級生が数に物言わせて下級生いじっちゃあ」
「いじるなら俺をいじれば? あはは」
一目で先輩後輩の上下関係を見破った彼らは、にこにこしながら結構なジョークをかっ飛ばす。
ちょうどよかった、と私の横から調理部の先輩が進みでた。
「ねえ、この子と帰る方向一緒の人、いる? 誰か家まで送ってってくれないかな」
事情をざっくり説明する。
そのあいだ、私はわずかな期待を抱きながら辺りに目を配っていた。