彼氏と思っていいですか?
顔を知っているだけのその先輩には引き留めてしまったことをお詫びし、朝陽くんに送ってもらうことになった。
二人乗りでもするのかと思いきや、そうはならなかった。
朝陽くんは自転車を引きながら、意外にも車道寄りを並んで歩いてくれている。
「というわけだから、おとなしく送られてくれる?」
扱いにくい犬猫を相手にしているような物言いに、含み笑いをしていると、
「なにもしないから」
と言われた。
「なにもしない。絶対触んない。うん」
私は無言で朝陽くんを見あげる。
なにもしないと言い聞かせてる。
それって、本当はなにかしたい、ってことだ。
だけど私にはあのときのような怖れはなかった。
私のために、なにもしないと言ってくれている−−それで事足りた。