彼氏と思っていいですか?
違うよ。
肩を持つとか味方だとかそんな話をしているんじゃない−−。


私の足が止まる。それでもついて行かなきゃと歩こうとする。
置いていかれないようになんとかついていくものの、涙のほうは無理だった。はらはらとこぼれ落ちた。

溢れてどうにもならなくて鼻をすすり上げるのと、振り返った朝陽くんが気づいてぎょっとしたのと、どっちが先だっただろう。



「ちょっ……ええ!? マジ?」

朝陽くんのうろたえる声がする。
私は俯けた顔をあげることができない。

「なにも泣かなくても……紗菜?」

のぞき込まれる気配がある。
返事の代わりに嗚咽が漏れてしまう。ますます涙がこみ上げてくる。
両手で顔を覆ったまま、とうとう一歩も進めなくなってしまった。

朝陽くんは自転車を路肩に立てかけると、その両腕で私を支えるように触れた。

「あのさ、泣かすつもりはなくって……俺はただ」

うまく言葉にできなくて悲しい。
大切な気持ちが伝えられなくて悲しい。

『俺はただ』? 
ただ、なんだっていうの?
心を砕いて、すり減らすまで真剣に向き合って、それで止められなくなっている涙にこれっていうのは……。

さすがに、腹が立った。

「あったまきたっ!!」

涙目で睨んだ。

「ん、うぇっ?」

「朝陽くんはなんでそうなの? なんでそういうこと言うの!? そういうことしか言えないの!?」


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