彼氏と思っていいですか?
手を差し伸べられたらすがりたくなる。そのままそばにいたくなる。
でもそれでは今までと同じことの繰り返しになってしまう。
うやむやにしないで、気持ちにみあった距離でいたいんだ。
彼氏かもしれないなんて、思いこまなくてもいいように。
「さっき触らないって宣言してたのに、破っちゃってるよ」
無理矢理笑って言った。そう言えば離れると思った。
朝陽くんは神妙な顔つきでじっと私を見つめると、おもむろに私を引き寄せ、今度こそ完全に腕のなかに閉じこめた。
「朝陽くん?」
聞き返す私の声が裏返っていた。狂ったように心臓が音をたてていた。
抱きしめられるのが本日二度目ともなると、なにかの間違いでも一時の衝動でもないと思うから、祈りのように切実に期待してしまう。
「じゃあ、こうする」
朝陽くんは抱きしめる力を強くする。
これ以上ないほどの近い位置で、誰にも聞かせまいとするかのように、その声が伝わってきた。
「紗菜。好きだよ」
瞬間、これまで彼に向けられてきた眼差しが記憶のなかで鮮明に色づけられ、ぐんぐん迫ってきた。
好感より強い想いに目眩がする。
私、ちゃんと想われてたんだ。