彼氏と思っていいですか?

「ああ、それは」
と、朝陽くんがなんでもなさそうにグラウンドの遠方にあたる本部席まえに目を向けた。

つられて見ると、横並びの選手たちが乾いたピストルの音を合図に一斉に駆け出すところだった。


部活対抗だけあって、派手なユニフォームや柔道着、袴姿に競技用水着と格好だけでも多種多様だ。
剣道部は竹刀を持って素振りをしていながら駆けているし、水泳部の第一走者は背泳選手らしく、水をかく動作をしながら背面走行に徹していた。

ラケットやバットを振る人の周囲は不自然なくらい距離が空いていて、その後ろにはハンデとして遅れてスタートするランニングシャツ姿の陸上部とあともうひとり、レモンイエローの半袖を着た長身の人がスタートライン上に留まっていた。

あれ、あの派手な色の人はなんの部なんだろう。
バスケットボール部、バレーボール部、と主要な部活を数えあげ、消去法で残ったのはサッカー部。

よそ見をしているうちにむかで競争の選手召集場所に着き、そこでああとなった。
ここにいるはずの幹仁くんの姿がない。


「香織ちゃんと一緒。才能あるヤツっているもんだな」

ハンデの時間を満たした陸上部がスタートを切ると、その脇にいたレモンイエローのその人は足元にサッカーボールを置き、一蹴りすると同時に走り出す。

ボールは第二走者に向かって正確で大きな弧を描き、飛んでいった。
ゴールキックさながらだった。


「え、じゃあなに? むかでは朝陽くんが出るの?」

「なに、俺じゃ不服?」

「そんなこと言ってない」

焦る私を見て朝陽くんは楽しんでいるとしか思えない。
第一グループの香織ちゃんと別れて、第二グループに合流する。


私たちのチームの並び順は簡単だった。背の低い順だ。
私が先頭で次が三年生の女子の先輩で、次が……。

縦一列に並び、かがんで足を結わえる。
右足は右の紐、左足は左の紐。


「あれ、待って。待って。待って」

朝陽くんだけが慌てている。

「なんかおかしくないですか? こういうのって男女交互じゃないの!?」

「んなこと誰が決めた?」

最後尾を務める体格のいい男の先輩が重低音を響かせる。

「色物競技もあるけど、ここは勝ちにいこうって話に落ち着いたんですよ」

「不服かい? 女泣かせくん」

ここでもあの帰り道の件を持ち出されるとは!
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