離してなんかやるかよ。
久々に颯に名前で呼ばれた気がした。
だけど颯はプレイボーイ。
女の子を名前で呼ぶなんて普通…。
颯に名前で呼ばれて嬉しいって少し思ったけどやっぱり嬉しくなんかないっ。
颯は意識して女の子を名前で呼ばないのにあたしは颯に名前を呼ばれただけで嬉しがってる。
颯にとったら女の子の名前を呼ぶことは大したことじゃないのに。
あたしったらなに自惚れてたんだろ…。
さっきまで颯がバイトのハーフの先輩じゃない別の女の子と抱擁してたのみてすごく胸が苦しくなってたのに。
ううん、今も苦しいよ。
颯はプレイボーイであたしを絶対好きにならないから心憂いててあたしすごく胸が痛いよ―…
切なくて胸がギューっと締めつけられて涙が頬を一筋にこぼれる。
「…ひくっ…ん」
涙が止まらないよ。
「…颯が女の子と抱きついててっ…。あたしもう颯に好きになってもらえないんじゃないかって…颯は女の子みんなのものでっ…」
目の前に直谷くんがいてあたしは直谷くんに向かって泣きじゃくって言う。
直谷くんに言ったから少し楽になるわけでもない。
直谷くんに言っても辛くて辛くて仕方ない。
だけどそんなあたしに直谷くんは―…
「俺が傍にいるから」
あたしを抱きしめた―…
背中に直谷くんの手が触れて温もりを感じる。
「宇佐美さん俺のこと好きになってよ。俺宇佐美さんが辛い時はいつでも傍にいてやるから」
え…。
直谷くん―…?
なに言ってるの!?
なにしてるの!?
「…俺宇佐美さんのこと好きなんだよ。俺小学生の頃から宇佐美さんが好きだ」
「…え」
直谷くんなに言ってるの…?
あたし全然わかんないよ。
ほんとっ…わけわかんないよ。
「最初は付き合わなくてもそばにいれるだけでいいって思った。
そばにいて宇佐美さんと話してるだけで。それだけでいいって…思った。
だけど俺は中学校宇佐美さんと離れた、そして中2の時から引っ越してこの前この町に戻ってきた。町も宇佐美さんも全然変わってなかった。
だけど宇佐美さんは神崎くんと付き合っててその神崎くんと一緒に住んでて
俺はやっぱりそばにいるだけでいいと思った。だけど神崎くんのことで泣いてる宇佐美さんを見てられなくなって
そばで支えてやりたいって思った。
俺と付き合ってください」
『俺と付き合ってください―…』
颯にも言われた。
だけどそれは嘘だったの?
あたしは直谷くんに告白されたのに颯のことばっかり考えてる。
直谷くんは…
あたしのことが好きなんだ…。
あたしと付き合いたいんだ。
だけどあたしはね…
颯がプレイボーイでも女の子みんなのものであたしを一生好きにならなくても
あたしは颯と住めるだけで他の女の子よりも贅沢してて特別だし颯にまだ嫌われてないって思えるし
颯があたしに一生、恋愛感情もたないってわかってても…
「あたしは颯が好きです。これからも颯が好きだから…!ごめんなさい…」
直谷くんはあたしが颯を好きってことをわかってて告白した。
直谷くんは相当人見知りだから告白するのには相当勇気が必要だったと思う。
なのにあたしはプレイボーイで一生好きになってくれるかもわからない男をまだ好きって言うんだね。
直谷くんは勇気を出して告白したのにあたしはプレイボーイの颯も意地悪な颯を甘党な颯もどんな颯も好きだから
ごめんなさいって直谷くんを振っちゃうんだね。
本当あたしってすごく自分勝手だよね。