離してなんかやるかよ。
「お父さんサイン貰ったの?誰の?」
小さな子供が話してる。
黒髪で小さな背中。
「アメリカのアーティストのサインだよ。今日カフェに来たんだ」
「アメリカってなに?アーティストってなに?」
「まだお前には難しいよな―…」
子供が話してた相手お父さんが突然霧のような得体の知らないものと共に消えた。
「お父さん!お父さん!お父さん!」
小さな背中の子供が必死に叫んでる。
そしてその子は振り向いた―…
だけど顔が見えない。
顔が見えない―…
…―君は誰なの?
白い物体が視界に入ってる。
チョコレートの香りがする。
「頭痛い…」
ここは家…?
あたしの部屋だ。
あたし寝てたんだ。
じゃあさっきのは夢。
お父さんって一生懸命叫んでた子は誰だったんだろう…。
「父さん…」
突然近くから声が聞こえた。
この声は颯…?
だからチョコレートの香りがしたんだ。
声が聞こえた方を振り向くとあたしのベッドに突っ伏して寝ている颯がいた。
お父さんを呼んで、すごく寂しげな表情をしてる。
あたし颯を支えたいよ。
まさか…夢の中の子供は颯なんじゃないの―…?
あたしは不意に颯の頭を優しく撫でた。