離してなんかやるかよ。

「…ん」


肩から生クリームの香りがふわっと漂う。


「お父さんお母さん…」


ホラー映画を観ていたはずの柚來が俺の肩に頭を乗せてる。


寝てんな…、すげぇ幸せそうな形相してるな。



柚來がつぶやいた、お父さんお母さん。



俺には父さんがいねぇ。



だけど柚來には父さん母さんがいる。



柚來の家族はきっと平和で幸せな家庭。



俺が憧れる、理想の家庭。



きっとそうだ。


柚來はいいな―…



この修学旅行で離れ離れだった両親と再会できるんだもんな。




俺は父さんとは再会できねぇ、二度と会うことできねぇんだな。



そう思いながら俺も寝ようとした。



「神崎、柚來寝てるんでしょ?それなら映画止めるか消して」



「うい」




後ろから胡桃に話しかけられ指示通りに動く。



だけど画面には…画面には…画面には…



「こえーっ!!」



トラウマの目のないおじさんがうつってた。



俺は絶叫しながらも画面を消した。


そして意識が途切れた。



これを日本語で気絶というんだと思う。



俺はさっき鳳と直谷の口ケンカがほかのお客様の迷惑になるからやめろって思ったけど俺の悲鳴のほうが明らか迷惑だよな。



マジで修学旅行の始まりからこんなんで大丈夫なのかよ。



不安で不安で仕方なくて




父さんに俺も会いたくて



だけど会えなくて辛くて



そんな気持ちで修学旅行が始まった。



甘くて


切ない


修学旅行の始まり。


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