コドモ以上、オトナ未満。
「……何言ってんの、京香さん。未成年に酒出したら怒られるーって、こないだは散々怒ってたじゃん。つーか、京香さんもダメでしょ。お腹に赤ちゃんいるのに」
俺の言い分は正しいと思うのに、京香さんは怒ったような顔になり、そのままグラスに手を伸ばし、口元へ持って行く。
いや、ちょっと、ホントにダメだろ……
ガタッと席を立って、無理矢理グラスを奪おうとしたら、はずみで京香さんの手からグラスが落ちた。
――ガシャン!
音を立てて床にぶつかったガラスの破片と、琥珀色の液体が当たりに飛び散った。
「あ……ごめんなさい、掃除します、俺。道具、どこ?」
そう言って京香さんの顔を覗き込むと、京香さんはなぜか目にいっぱい涙をためていた。
「……京香さん?」
「……なんて、いないんだよ……」
「え……?」
よく聞き取れなかった。
……誰が、いないって?
「……赤ちゃん、なんて。もう、いないんだよ……」
ずくん、と胸の深いところに刺さる、重たい言葉だった。
でも、いないって、どうして。
妊娠してることを教えてくれたときは、あんなに幸せそうだったのに……