コドモ以上、オトナ未満。
「心矢くん、お願い。……ちょっとだけでいいから。胸、貸して」
俺が返事に迷っているうちに、京香さんは泣き顔を俺のワイシャツに押し付けていた。
そして、ゆっくり話の続きを語り出す。
「お医者さんは……誰のせいでもないって、言うんだけど。私のお腹の中で、いつの間にか、死んじゃってて……」
「……そういうこと、あるんだ」
「でも、いくら自分が悪くないって言われても、私にはそうは思えなくて……」
掛ける言葉が何も見つからない自分が、非力だと思った。
俺はもっと色々なことを知らなきゃいけない。
将来たくさんの人を助ける仕事に就きたいのだから、なおさら。
「……子どもの、父親は?」
「いないよ。……海外、飛び回ってる人だから、妊娠のことも知らせてない」
「なんだよそれ……」
「……そのことに後悔はないよ。ちゃんと、一人で育てる覚悟もできてた。でも、こんなことになるとは、思ってなかったから……」
それきり黙ってしまった京香さんだけど、しばらくすると、蚊の鳴くような声で、ぼそりと呟く。
「私……死んじゃおっかな」
本気かどうかはわからない。
でも、今の弱った京香さんを見てたら、そうしかねないとも思った俺は、今までだらりと下ろしたままだった腕を彼女の背中に回して、その体をぎゅっと抱いた。