コドモ以上、オトナ未満。
「簡単な手術だし、痛みも思ったほどではなかったけど……手術が終わって何日かして、やっと実感がわいてきたって言うのかな……
なんだか自分にはもう何もないような気がしてきちゃって、寂しくてたまらなくなった」
あたしは、そのときふと百花ちゃんの可愛らしい姿を思い出した。
京香さんは、あの子みたいな、小さくて愛しい存在に会えることを楽しみにしていたのに。
もう、そのお腹はからっぽなんだ……
あたしにその辛さの全部はわからないけど、想像するだけで胸がつぶれそうだ。
「その子の、父親は……?」
あたしが聞くと、京香さんは力なく笑った。
「心矢くんと同じこと聞くのね。その人とは籍も入れてないし、今どこの国にいるのかすらわからないの。それでも、愛するその人との子がそばにいてくれれば、私は頑張れるって思ってたから……余計に、つらかった」
愛する人との子……か。千秋さんも、確か同じようなことを言っていた。
子どもそのものは、その愛する人とは別人なのに、どうしてだろう。
あたしも大人になって、同じ立場になればわかるのかな。
そんな風に、あたしがぼんやりと、自分の将来に思いをはせていた時だった。
「……だから。私はあの日、心矢くんの優しさに、甘えようとしたの」
京香さんの言葉を聞くのと同時に、あのときお店の扉を開けた瞬間に目に飛び込んできた映像が、あたしの頭の中に、フラッシュバックした。
一瞬だけど、抱き合っていたように見えた二人。
あたしはそれを目にして、何もかも裏切られたように感じて。
だから逃げ出したんだ。言い訳のひとつも、聞かないで。