コドモ以上、オトナ未満。




「……ねえ、準備中って書いてあるけど」

「いいのいいの」


木でできた扉をギィ、と押して、真咲は怪しげなお店にに入っていってしまう。

路上に出ている看板には、あたしのつたない英語力でも読める“BAR”の文字。

……本当に、大丈夫なのかな。


半信半疑で真咲の背中を追うと、やっぱりまだ営業が始まっていないらしい店内にはお客さんの姿はなかった。

唯一いたのは、カウンターの中でグラスを拭く、とってもキレイな女性。

彼女は真咲の姿に気付くと、ぱっと表情を明るくして手を上げた。


「久しぶり、心矢くん。……あれ? 今日はお友達も一緒?」

「うん。同じクラスのココっていうんだ」

「ココちゃん? 可愛い名前! 初めまして、私は皆本京香(みなもときょうか)って言います」


あたしが慌てて頭を下げると、京香さんはふわっと花のように笑った。

彼女はそれから後ろの棚にグラスを片づけていて、あたしはその背中を見つめながら思う。


……歳は二十代前半くらいかな。

着ているのはあたしたちの制服と同じシンプルな白いシャツなのに、京香さんには大人の雰囲気がある。


いったい真咲とはどういう知り合い……?

そう思って真咲の顔をちらりと見上げると、ものすごく優しい瞳で京香さんを見ていた。

もしかして、真咲は京香さんのこと……


「座って? 今オレンジジュース出すからね」

「ありがと、京香さん」


真咲に促されて、丸くて背の高いカウンターチェアに腰を下ろしたあたし。

確かにここなら学校の生徒に会うことはなさそうだけど……

バーなんて場所には慣れてないから、どうもお尻が落ち着かない。


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