コドモ以上、オトナ未満。


「――私ね、心矢くんが中学生のとき家庭教師してたの」


オレンジジュースの入ったグラスをコトリとカウンターに置いた京香さんが言った。


「……遊んでばっかいたけどね」

「それは心矢くんが勉強する気なかったからでしょ?」

「でも京香さんもノリノリだったじゃん。オセロとか」

「そうだったかしら?」


くすくす笑い合う二人は、真咲が制服を着てなければ普通にお似合いのカップルに見える。

……っていうか、そういう思い出話しに来たんなら、あたしいらなくない?

そんなことを思いながらジュースを飲みほしてグラスを置いたら、思った以上に大きな音が出てしまった。


「ほら心矢くん、ココちゃん退屈だって。私、あっち行ってるから開店までどうぞごゆっくり」

「そ、そういうわけじゃ……」


……オトナの人に気を遣わせてしまった。

しかも、あんなに素敵な人に。

自分がものすごくカッコ悪いような気がしてうつむくと、真咲がカウンターに突っ伏すようにしてあたしの顔を覗き込んで来た。


「……ココ、どしたの?」

「別に。……ただ、あたしの方こそ二人の邪魔なんじゃないかと思って」

「あー、平気だよ。もうずいぶん昔に俺フラれてるからさ」


真咲はへらっと笑って言った。

その笑顔にちくんと胸が痛んだのは、さっき真咲が京香さんを見つめていたときの瞳が、彼女のこと諦めてるって感じには見えなかったから。


……きっと、真咲はまだ好きだ。

京香さんのこと。


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