コドモ以上、オトナ未満。


賢人の声は、耳を通り抜けてすぐに消えていった。

代わりに俺を支配していくのは、さっきまで一緒にいたココと交わした会話。

彼女のいろんな表情。

つないだ手のぬくもり


ぎゅっと拳を握った俺は、静かな声で賢人に告げる。


「賢人……お前、俺のクラス行って、“ホームルーム出れません”って、担任に伝えてくんね?
ついでに俺のカバンも持ってきて。俺は体育館に行ってる」


実行委員のココは、後夜祭の準備でおそらくそこにいるはず。

教室に戻って、他の奴らの前で転校するにあたっての最後の挨拶とかやってる場合じゃない。


「お前、そんなことして俺がどーなると思ってんだよ。不法侵入のちんぴらだと思われるのがオチだ」


その髪色じゃあ確かにな……

でも、恩田先生なら、外見だけで人を判断したりしないはず。


「……ウチの担任、話分かる人だからたぶん平気」

「マジかよ……つかお前のクラスってどこだよ」

「2―C」

「……仕方ねーな。これは貸しだぞ」


恩着せがましくそんなことを言う賢人を、俺は鼻で笑った。


「貸しって……俺、北海道行くのに?」

「うるっせーな、しつけーんだよ俺は。ほら、とっとと行け!」


賢人に追い出されるようにして、空き教室出た俺は、早足で体育館へ向かう。


< 172 / 211 >

この作品をシェア

pagetop