コドモ以上、オトナ未満。
オトナじゃないから
「――あ、岩崎さん。あなたは教室へ戻っていいわよ。ほら、あなたのクラスで今日を最後に転校しちゃう子がいるでしょう? だから、あなたはホームルームに出て?」
後夜祭の準備をしにやってきた体育館。
けれど担当の先生に親切でそう言われてしまって、あたしは正直困った。
だって……真咲の最後の挨拶なんか、見たくなかったから。
今日、一緒にいろいろな場所を見て回って、久しぶりに手も繋いで。
あたしはやっぱり、真咲が好きだ……って、痛いくらいに思い知らされた。
だけど真咲の方はやっぱりどこか一線を引いたような態度。
あたしが友達ラインを超えてこないように、わざとそうしているようにも見えた。
それが真咲の優しさなんだろうし、もしそうしてくれなければ、あたしはワガママなことを言って、彼を困らせていたかもしれない。
見えないインクを使って壁画の上にだけ吐き出したのと同じ、叶わない願いを……
「……今頃、挨拶してんのかな」
体育館から移動したあたしがぼそりと呟いたのは、二階の非常階段。
ここからなら、真咲に気付かれずに彼を見送れる。
そう思って、ちょっと風が寒いけど、金属の手すりにもたれて校門近くをぼんやり見つめていた。