コドモ以上、オトナ未満。
ぴた、と足を止めた彼が、身を屈めてあたしの顔を覗く。
……聞こえてたのかな。
にしても、近いよ。久しぶりなんだから、もうちょっとゆっくり接近してくれないと、心臓が持たない……
おずおずと視線を合わせると、まじめな顔の心矢に聞かれる。
「……今ここで軽くキスされんのと、家に帰ってからがっつかれんの、どっちがいい?」
い、今……!?
ぼっと火がついたように、顔が熱くなる。
もう夜だから辺りは暗いけど、人通りのある路上でなんて、恥ずかしくて耐えられない。……それに、仕事上も、ちょっとまずいと思う。
「……い、家……かな」
「だよな。俺も家がいい。オオカミになるなら」
「オオカミ……」
がっつくとかオオカミとか、いくら高二で恋愛面の成長が止まっていたあたしでも、その意味はわかる。
でも、もともと今日は彼と会えるなんて思ってなかったから、心の準備とか全然……
「ココは嫌? ……嫌なら、しないよ」
「い、いやじゃない! けど……」
「けど?」
……けど、なんなんだろう。よく考えてみたら、断る理由なんてひとつもない。
あたしたち、両想いなわけだし……
もう、充分オトナだし。
「……優しく、して……ください」
ぼそぼそと言ったあたしを、心矢は満足そうな笑みで見つめてから言う。
「……なんで急に敬語?」
そんなの、恥ずかしいからに決まってるじゃん……
無言で顔を背けたあたしの頭をポンポンと叩いた心矢は、小さな子の手を引くように、繋いだ手を引っ張りながら、再び歩き出した。