コドモ以上、オトナ未満。

――あれは確か、高一の終わり頃。

春になったばかりでまだ肌寒い、雨の日だった。

今日みたいに道ばたに捨て猫の段ボールがあって、その箱の前に、俺と同じ高校の制服を着た一人の女の子が傘をさしてしゃがんでいた。

きっと、心優しい女の子が、猫を拾ってあげるんだろう。

そんな風に思って、彼女の後ろを素通りしようとしたとき。



「……あたしも、いつかアンタみたいになるのかな」



しとしと降る雨の音に紛れてそんな言葉が聞こえて、俺の足が止まった。

……猫に話しかけてるのか?

にしても、なんでそんな寂しいセリフ……

いったいこの子はどういう子なんだろうと興味が湧いて、俺がしゃがんでいた彼女の方へ視線を移すと、ちょうど彼女も立ち上がったところで。


「……この中、見ない方がいいよ。情が移るから」


彼女は一度だけ俺の方を見てそう言うと、足早にこの場から離れてしまった。

さっきの台詞を聞いていたから、どれだけはかなげな顔をしてるんだろうと勝手に想像していた俺は、少し面喰った。

はかないどころか、気の強そうな吊り目、ぶれない眼差し。

それが矢のように胸に突き刺さって、抜けなくなった。

しばらくぼうっと彼女が差してた水色の傘を見つめていた俺だったけど、それが遠ざかって見えなくなると、俺は思い出したかのように、段ボール箱に視線を落とした。


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