コドモ以上、オトナ未満。

花火大会の記憶


「……え? 大森くんって、前に駅前であった人?」

「うん、それ」

「な、なんで? ココちゃん、あの人のこと好きなの……?」


冷房の効いた学校の図書室。

六人掛けの大きな机をはさんで向かいに座るカナコが、あたしに困ったような表情を向けた。

八月に入り、そろそろ宿題に本腰を入れないと……と思っていたら、カナコから連絡があった。

“夏休み、楽しんでますか? 部活も休みに入ったから、久しぶりにココちゃんに会いたいな”

――そんな内容のメールが。

それで、とりあえず学校で会おうってことになったから、図書室に宿題を持ち込んで、雑談しながらそれを片づけていたところで……

あたしは、大森とのことを報告したんだ。

彼と、付き合い始めたって。


「好き……かどうかは、よくわかんないんだけど。一緒にいるのは楽しいかな。
いつもふざけてあたしのこと笑わそうとするんだもん、アイツ」


あたしと大森は今日までに数回デートをしていて、自分でもだいぶ親しくなってきたと思う。

アイツの通う学校がどれだけボロいかとか、クラスで流行ってるくだらない遊びの話とか、モデル仲間の誰と誰が付き合ってるだとか……

あたしの知らない大森の世界のことを聞くのは楽しくて、一緒にいて退屈だと思ったことはない。


「そのこと……真咲くんは知ってるの?」


カナコが、なぜだか浮かない表情であたしに聞く。


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