コドモ以上、オトナ未満。
「……次の授業、なんだっけ」
自分のクラスへ戻る廊下の途中で、真咲に聞いてみる。
「……わかんない。俺、時間割とか頭に入ってないんだよね」
「だよね……あたしも」
何にも生み出さない会話。
でも、無理に自分を取り繕ったりしなくていい分、真咲の隣は特に居心地が悪くないと感じる。
自分の時間をコマ割りされて、したくもない勉強を詰め込まれる毎日……
それに真っ向から反抗したって、コドモのあたしたちの意見なんて鼻で笑われて、どこか遠くへ飛ばされてしまうんだ。きっと。
そんなことを考えながら辿り着いた教室で、あたしよりも先に異変に気付いたのは真咲だ。
「あそこ、ココの席だよね?」
彼が目を細めて、睨むように見つめるのは窓際の後ろから二番目の席。
「だからココはやめてってば……って。なにあれ」
確かにそこはあたしの席。
ぽたぽたと、机から水がこぼれて床に落ちている。
その上で水浸しになっているのは……地理の教科書と、地図帳だ。
黒板の隣に貼り出してある時間割を見れば、あと数分で始まる次の授業は地理。
コイツら、またくだらないことを……
あたしは教室の一番後ろにある掃除用具入れから、かぴかぴの雑巾を取り出して、自分の席に向かう。
たぶん、にやにやしてあたしの姿を見ているであろうクラスメイトの目は一切気にならないという素振りで、ただただ自分の机だけを見つめて。