コドモ以上、オトナ未満。


こういうことは初めてじゃない。

体操服が消えたり、シャーペンの替え芯が全部ぼきぼきに折られていたり、あたしがトイレに入っているのを知っていて、鏡の前であからさまに悪口を言われたり。

そういうことがあるたびに、あたしはただ淡々と処理してきた。

たとえば涙を見せればヤツらは満足なのかもしれないけど、泣くなんてまっぴらごめん。


こんなことして喜ぶ人間の仲間になんて入りたくもないし、あたしはあたしでいい。

誰の助けもいらない――――



「――ココ、これ使って」



一心不乱に机の上を拭くあたしの目の前に、キレイな教科書と地図帳が差し出された。

言うまでもなく、視線を上げた先にあるのは真咲の整った顔。

だから……アンタがあたしにこういうことするの、よくないって。


「……別にいい。濡れてても読めるし」

「でも気持ち悪いじゃん。いーよ、俺は忘れたってことにするから」

「それでアンタが怒られる方がこっちは気持ち悪いってば」


そんな言い合いをしていると、教室の前の扉が開いて地理の先生が入ってきた。

男なのに睫毛が長くて、陰で“ラクダ”と呼ばれているその先生は、立ったままでいるあたしと真咲を見ると、ただ事務的にこう叱る。


「そこの二人、席に着きなさい」


どうしてあたしの手に雑巾が握られていて、真咲が教科書を差し出していて、それを見るクラスメイト達が、異様な雰囲気なのか――――

そんなことを、考えもしない。

先生は、自分の授業を自分のペースで進めたいだけ。

同じ教科担当の他の先生に後れを取りたくないから。

自分の評価を下げたくないから。


本当に、オトナって勝手だ。


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