コドモ以上、オトナ未満。


その日はお父さんを病院に残して、あたしは真咲と一緒に恩田先生に家まで送ってもらった。

夜更けに着いた家で、明日病院にに持って行かなきゃならない荷物をまとめるために、あたしはお父さんの寝室に入った。

普段なら絶対に入らないその部屋には無駄なものが一切なくて、ただ眠るだけのためにある部屋って感じだ。


そんな殺風景な部屋のクローゼットを開けて、適当な着替えを探していたあたしだったけど、たまたまのぞいた衣装ケースから出てきた写真のせいで、動きが止まってしまった。


「これ、いつのだろ……」


あたしの手の中にある写真には、まだお母さんがいた頃の家族三人が、笑顔で写っていた。

前はこんなに幸せそうだったのに……

あたしが焦点を合わせたのは、お父さんに寄り添って微笑むお母さんの姿。


どうしてお母さんは、お父さんとあたしを捨てたんだろ……

新しい恋人ができて、家族が邪魔になった?

……そうとしか考えられないよね。

お母さんがこの家を出て行った日、家までその男の人が迎えに来たんだもん。


そう……だから、あたしは幼いながらに思ったんだ。

お父さんには、あたしがいてあげなきゃって。

でも、いつしかその気持ちは薄れて、ときどきお父さんの存在が疎(うと)ましくて……

あたしがそんな態度だから、お父さんの体調が悪くなったのかもしれない。

明日、病院に行ったら、謝ろう。

それから、正直に話してみよう。


――あたしに、真咲っていう大切な人ができたこと。


お父さんに対してこんな素直な気持ちになれたのも、たぶん真咲のおかげだから……


< 95 / 211 >

この作品をシェア

pagetop