コドモ以上、オトナ未満。


翌日、昼間のうちに訪れた病室では、お父さんは大部屋のはじっこでぼんやり窓の外を眺めていた。

でも、入り口にあたしの姿を見つけると照れくさそうに笑って、「おいで」と控え目に手招きをした。


「顔色、よさそうだね」

「ああ。まだちょっとふらふらするけどな」


そう言って苦笑するお父さんに着替えの入った紙袋を渡して、あたしは畳んで置いてあったパイプ椅子を開いてそこに腰かけた。


「お父さん。胃かいよう……ってさ。ストレスで、なるものなの?」


昨日のお医者さんは、原因は色々な要因でどうのこうのと言っていたけど、お父さんの場合はその色々のなかでも“ストレス”が大きいんじゃないかって、あたしは考えていた。


「そうだな……ちょっと、仕事で無理をしすぎたのかもしれない」

「……仕事……だけ?」


確かにこの頃、すごく忙しそうだったけど……それだけじゃないよね。本当は。

何か言いたげなあたしに気づいたのか、お父さんは首を傾げたあたしを見た。


「あたしのせい……も、あるんでしょ?」

「湖々のせい?」

「ん……その、なんていうか……」


謝ろうって決めてきたはずなのに、いざお父さん本人を前にすると、なかなか言葉が出てこない。

あたしが黙りこくってるうちに、お父さんはなぜだか納得したようにこう言った。


「……違う、湖々のせいじゃない。お父さんが臆病なのがいけなかったんだ」

「臆病……?」



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