コドモ以上、オトナ未満。
お父さんは、目を丸くした。
あたしからこんなこと言われるなんて、夢にも思わなかったのかもしれない。
「……あたし、確かに好きな人がいる。でも、だからお父さんのことキライになったとか、そういうんじゃないし……」
なんか、うまく言えないな……でも、あたしから“話そう”って言ったんだもん。
つたない言葉でもいい。
自分の気持ち、伝えなくちゃ。
「――あたしは、家に帰ってお父さんがいないと、寂しい。だって、たった二人の家族だもん。
今回みたいなことがあって、カラダのことも、心配だし……できれば今度から、もう少し、早く帰ってきてほしい」
なんだ……言えるじゃん。
素直になるのって、難しいけど……それができたとき、こんなにも晴れやかなキモチなんだ。
「湖々……」
お互いに、長い間かけて作ってしまっていた、高い高い壁。
少しずつでいいから、壊せていけたらいいと思う。
「わかった。……本当に、ダメだな、お父さん。娘にこんなこと言わせて」
「別にそんなこと……って、お父さん、泣いてるの!?」
うっすらと赤みを帯びた目を見て、あたしは驚きの声を上げる。
「はは、カッコ悪いったらないな。大丈夫、嬉しいんだ。俺は決していい親とは言えないのに、湖々が優しい子に育ってくれて……」
そんな“優しい子”だなんて、ちょっと言いすぎっていうか、親ばかだよ……
ベッドサイドのティッシュを引き抜いて鼻をかむお父さんを、あたしは少し呆れた目で見ながら、でも心はあったかかった。
……家族って、悪くないかも。
あたしは病室のはじっこでそう思いながら、夏の終わりを迎えた。