聖ヨハン学校の日常
初めて黒山から聞いた咎めの言葉。
私は思わず黒山を見つめていた。
否、この男がそうさせているのかもしれない。
眼鏡の奥で私を見据える黒曜石のように大きく澄んだ瞳。
「急に…何じゃ」
私はそう小さな声で呟く事しか出来なかった。静かな部屋に私の声は溶けてゆく。
「僕はね…優しくなんかないんだ」
悲しそうに揺らいだその瞳は私は見逃さなかった。
突然、本当に突然こいつは何を言い出すんだろう。優しいじゃないか。私にだけじゃなく、皆にも。
笑顔を振りまいて柔らかく微笑んで。慈愛そのもののような奴が何を言い出すんだ。
私の声は、出ない。
「他人なんて僕にはどうだっていい」
眉を潜めながらそう発せられた言葉。そんな苦しそうな顔して言うな…。
皆同じことを思っているよ。道行き交う他人の心配なんてする人間、この世にいるわけないに決まっているじゃないか。
枯れた喉は、戻らない。
「君も最初は、その『どうでもいい存在』の一つでしかなかった」
わかってる。分かってるから。そんな事、言わなくても。お前のそんな皮肉めいた笑い方見たことない。苦しいのは誰かわからなくなる。
喉に刺すような痛みが、襲う。
「だからここにサボりに来たって、自己責任だし好きにすればいいと思っていた」
そうか。私を咎めなかったのは。分かっていたような気がしてたんだ。私は誰よりも心を開いていたのにどこか線を引かれてるような気がしていたんだ。
でもそれは、教師と生徒のそれだと思っていた。
呼吸が、苦しい。
「けどね、君は…僕の中で他人とは違う存在になったんだ」
わけ分からない。13歳の少女にこいつは何を言ってるんだ。こいつの撫でる頬を起源に全身が燃えたぎるように熱くなるのが分かる。
鼓動が、駆け足になる。
「君は、僕に似てる…すっごく」
似てる…………………?黒山が、私に?どこが?どう?和菓子屋なの?苦しいの?どこにも逃げられないの?
何が……。
黒山の顔が、迫った。