アイドルなんて、なりたくない<font color=
そんな生活に満足していた。

悩みの種はあるが…

「うぅ…優衣ねぇは朝から元気だねぇ」

麻衣が目を擦りながら言うと

「麻衣が朝から、だらっとしすぎ」

厳しく言ってから

「先行くけど、もし二度寝したら、静様が来るからね」

ぴしゃりっと音を立てて、襖を閉める。

ちなみに《静様》とは、怒らせると恐いモードの祖母の事である。

優衣と麻衣の間で、密かにそう呼んでいる。

麻衣は、仕方なさそうにベットを降りて、カーテンを開ける。

(あぁ、またこの景色)

毎日見るこの景色に、飽き飽きしていた。

朝の光の差す庭先。

祖父の趣味だが、立派な庭園である。

朝露が、太陽の光に反射して、きらめいている。

庭の先には白い壁に濃いグレーの瓦が並んでいる、古式ゆかしき塀。

そのさきには、近所の家々や畑や商店街。

その向こうには、緑生い茂る山。

この町は、芸術品のような景色を醸し出している。

この町を創った先人達の努力と遺そうとする者達の努力の結晶だろう。

でも麻衣は、この景色を見る度に憂欝になる。

別に、この町が嫌いな訳では無い。

この町は、自分にとても優しい。
< 15 / 99 >

この作品をシェア

pagetop