アイドルなんて、なりたくない<font color=
もともと、やりたくない仕事だったから、願ってもない事だが…
母は、情熱を注いでいた。
だから、こうなった訳だが。
とにかく、仕事は出来ないのだ。
これは確定事項。
少しの間なら急な体調不良、入院などで誤魔化せるだろうが、いつまでも効かない。
(まあ、引退って事でケリがつくだろ)
かなり楽観視していた。
彼は、母の真の執念を知らない。
(まずは、両親に報告だな。残念そうにしないと…)
顔を強ばらせる。
相手は、かつて伝説となった大女優だ。生半可な演技では見抜かれてしまう。
彼は鏡の前に立ち、表情の練習をする。
何度か練習した後、形になる。
(最初は『父さん、母さん、どうしよう』だよな)
腕を組んで考える。
(あまり凝りすぎると見抜かれてしまうからな。あくまで、自然に、自然にだ)
試行錯誤を繰り返した後、セリフは決まった。
「怜?まだ寝ているの?」
ちょうどよく母の呼ぶ声がする。
(よし!本番だ。怜)
鏡を見ながら気合いを入れる。
(ぶっつけ本番、やり直しはきかないぞ)
言い聞かせながら部屋を出る。