アイドルなんて、なりたくない<font color=
だからと言って、母や怜がやっている仕事を否定している訳ではないのだ。

《橘香織》という大女優の娘である事は、誇りでもあるし、周囲が怜を称賛する度に自分の事のように喜んだ。

だが、優衣が芸能活動する事とは別問題である。

あくまで優衣は、怜の活躍を陰ながら応援する事が好きなのだ。

自分もやってみたいなどとは、微塵も思っていない。

麻衣が、やりたがっている事も知っている。

だが、医者から空気の悪い所に移るのは危険だと言われて、諦めざるを得ない事も。

そんな麻衣の気持ちも踏みにじる事にならないか…そういう事も頭をよぎるのだ。

(何で私が…)

眉間に皺を寄せていると

【ココン】

ドアが鳴る。

「はい?」

優衣が起き上がって返事をするのと同時にドアが開く。

「怜…」

怜が神妙な顔で入ってくる。

「優衣、さっきは…」

「いいよ。…私こそ、怜に謝らないと」

「謝るって?」

怜が驚いた顔をしていると

「私のせいなんでしょ?レイナが…」

「違う」

「え?」

「そりゃ、人気が上がるきっかけは優衣が作ったけど、維持させたのは俺の実力だ」

怜が胸を張りながら言う。
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