アイドルなんて、なりたくない<font color=
静かに落ち着いた様子で、撫子が言う。

「撫子?何故そんなに落ち着いているのだ?」

慎吾の問いに撫子は黙っていたが、俯いて

「…分かっておりました」

擦れるような小さな声で言った。

「え?」

慎吾が目を見開いて驚いている。

いつの間にか、撫子の頬には涙が伝っていた。

「…撫子」

「秀吾さんの運命は分かっておりました。戦地に配属されて、かの地で命尽きる事も」

撫子は唇を噛む。

「何故?」

慎吾の口から自然に出てきた疑問だった。

「…私が蒼龍神社の祭司の一人だからです。未来を見つめるのが私の務め」

撫子は泣きながら答えた。

慎吾は、撫子の両肩を掴み

「何故、それを秀吾に!」

問い詰めるが、撫子は首を横に振り

「神々が決めた運命は、どのような理由があろうと、口に出す事は許されません。世界に歪みが生じるからです」

つらそうに泣きながら答える。

「…すまない。一番苦しんでいる筈なのに」

掴んでいた両肩から手を降ろして

「すまない」

もう一度謝る。

撫子は首を横に振り

「いいえ、慎吾さんは、当たり前の事を言った…ので…す」

言いながら、その場に崩れ落ちる。
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