薔薇の香りと共に

「君は、まぁ所謂ハーフという人種なわけなんだよね」


「そ、うですね…知ったのはついこの間のことですけど」


「そうか。でも、ハーフ顔だとは思わなかった?」


「それは…よく言われてはいました…。髪や目の色素も薄いし…でも、本当にハーフだとは思わなかったから……」


自嘲気味に笑う私に…


「君は、ただのイギリス人と日本人のハーフではないよ。」


彼は不適に微笑んでそう言った。


それ…どういうこと…?


「─薔薇の国 霧の街。それが、イギリスの首都ロンドン。

そして、夜。霧の中で薔薇の香りを纏い、さ迷う存在がいた。

しかし、その存在を目にしても、その姿を記憶している者はいない。

なぜなら、記憶ごと彼らに吸われてしまうのだから─」


「そ、それは…?」


「とある物語の文頭なんだけれどね…、ユエは、彼らの正体をなんだと思う?」


「さぁ……何なんですか、彼らは…?」


「彼らの好物は…人の血。」


その冷たい瞳を光らせた彼が、何を言っているのか、理解できなかった。


「……な、なに……」


「ヴァンパイア」


「え……?」


「ヴァンパイアだよ、聞いたことあるだろ?」


…………ヴァンパイア…………


「聞いたことはありますけど………そんなの、本の中とか……架空の存在なんじゃ…」


「そう思うの?」


「あ、当たり前です…!!は、俳優だから……て、演技して……人のことからかってるんですか…!?」


「からかう…?そんな風に見える?」


その冷たい声にハッとして、彼を見ると……


あの、冷たい瞳が、まっすぐに私を見つめていた。
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