Sweet Honey Baby
 別に青い目をしていようとどうだろうと、外人なんて見慣れた俺が驚くこともなかった。


 けど、鏡の向こう側に見える透き通った深い青の目が、こっちを見ているのに俺は吸い込まれてしまいそうな感覚を覚える。


 …ガキの頃、”アイツ”の親に連れて行ってもらった海みたいな色だ。




 「…なんだよ、どうりでバタ臭い顔してると思ったら、お前混血?」




 心の中だけで呟いたつもりの声が、口から零れていた。


 それに気を悪くするでもなく、女がプッと吹き出す。




 「混血って、あんたずいぶん古臭い言い方すんのね。いまは、ハーフとかクォーターとか普通言うんだよ」

 「…どっちだって一緒だろ。カラコン入れてたのか」

 「まあね。あたしは父親がハーフのクォーターらしいんだけど、うちのお婆さんもたいがい時代錯誤でね。この目の色が嫌いで、そのまんまだと嫌がるんだよね」




 俺の家もたいがいだが、この女の家もずいぶんな環境らしい。


 生まれついてのものを隠せって言うのは、ずいぶん酷い話なんじゃないか?


 そのわりに…本人は大して気にしていないのかあっけらかんとしている。


 そもそもこの女には神経なんてないのかもしれない。


 いきなり強引に抱いた俺に対して、平然と会話し、あまつさえ、好きに他の女と遊べと推奨する…曲がりなりにも、婚約者だろうよ、俺は?


 まあ、どうせ、財力と家柄目当ての政略結婚。


 この女にとっても、俺なんてどうでもいいんだろうな。


 なにが、『可哀想。女に愛してもらったことがない』だよ、胸糞わりぃっ。


 ドキッとしちまったのは、気のせい。


 ちょっとだけ、正直、ちょっとだけ、この女が綺麗だって思っちまった自分を打ち消したくって、事さらそっけなく返す。




 「ふん、目の色の一つや二つ、隠したって大して変りゃしねぇじゃねぇか」




 振り返った女が、パチパチッと瞬きして小首を傾げてる。


 なんだかその動きが小動物めいていて、落ち着かない。


 俺はガキの頃から、ネズミとかリスとかそういう細々した生き物が苦手なんだよ。


 犬とかデカイ動物はけっこう好きなんだけどな。




 「…あんた、けっこうイイ奴だね」




 女が柔らかく笑う。




 「は?」

 「別に何でもない。じゃ、あたしシャワー浴びるから、あんた出ていってよ?やることやったし、もう用はないでしょ?」









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