Sweet Honey Baby
 朝6:30。


 今は年度替わりで大学の講義はほとんどなくって、いつもはこんなに早い時間の朝食ではなかった。 


 かなり窮屈な生活を強いられてはいるけれど、いつもだったら朝はわりとゆっくりで、とにかく三度の食事以上に寝ることが好きなあたしとしては、今日みたいなこの時間の朝食は辛い。


 できれば、ギリギリまで寝ていて、自室での食事を希望していた。
 

 でも、今日に限って却下。


 曰く…坊ちゃんや旦那様方がいらっしゃる時は食堂の方で、お食事をお召し上がりください。


 まあ、そりゃね、家主を置いて寝てるわけにいかないっていうのはわかりますよ。


 言いたいことはわかるけど、つい昨日までは家主のいないお邸で悠々自適?な毎日を送っていたあたしとしては、ガックリ。 


 …どこ行ってたんだか知らないけど、どうせなら結婚するまでずっと帰ってこないくてもいいのに。


 なんだったら、結婚後もずっと。


 男に貞操観念など必要ない的な発言してた、俺様傲慢男の顔を思い浮かべる。


 まあ、半月も顔を見せなかったくらいだから、別に住まいもあるんだろうし、たぶん数日我慢すればまたいなくなるだろう。


 そう自分を慰め、半分船を漕ぎながら身支度を整え食堂へ。




 「…ふわわわわわぁ」




 世話係兼教育係の稲垣さんの目を盗んで、大あくび。


 でも、しっかりバレていたみたいで、稲垣さんの目尻が下がって、横を向いた顔がわずかに笑っていた。


 稲垣さんは、あたしの母親くらいの年代の女性で、やたらと厳格な人揃いの教師たちとは一線を画している。 


 特に甘やかしてくれるって感じでもないけど、冷たい感じでもなく、あたしの体調や気分を見て、時々休養も教師たちに申し出てくれていた。
 

…この人、このお邸ではメイド頭って言ってたけど、どういう位置の人なんだろう。


 執事なんて大時代的な使用人もいる家だけど、その人たちの大半よりも立場は上みたいだ。


 稲垣さんが頭が上がらないのは、総執事長の松じぃ(あたしが密かに心の中で呼んでいる)と運転手の小坂さんくらいなもので、あたしには手抜かりがない教師たちですら、一目を置いていた。


 先導されて食堂に入ると、すでに、一也が席についている。


 …って!?




 「………」




 濃紺の詰襟をきっちりと着こなし、正しく美しくフォークとナイフを使いこなすその姿は、まるで王子様。


 王子様って、今ちょっと脳になんか湧いてたわ。


 …じゃなくって。




 「ねぇ、ちょっと聞くけど、それってもしかして、学ラン?」
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