Sweet Honey Baby
 信じられない…こいつ、まだ高校生なんだ!?


 驚いて目を見開いているあたしを怪訝にチラ見した一也が、あたしの驚愕を無視したまま一口大に切ったベーコンを口に運んでいる。


 うう、見慣れた食材が、こいつが口にしているだけですごい豪華な食事に見える。


 パンをちぎる姿さえ優雅で、これが本物とにわかの違いなのかと思わず感心させられた。




 「…まずはおはようございます、じゃねぇの?」

 「は?」




 あまりに常識的なことを、この非常識な男に言われたので、朝から間抜け面を晒してしまった。


 いや…その前に、ポカッと口開けてこいつを眺めちゃってるから、すでに見られた顔してなかっただろうけど。


 それにしても高校生…。


 とりあえずは挨拶は礼儀の基本と言うことに意義はない。




 「えっと…、おはよう」




 挨拶したのに、当の本人は。




 「ああ」

 「……」




 ああ、って何?


 ああ、って?




 「…おはようって言われたら、おはようって言い返しなよ」

 「……」




 無視。 


 正直、まだ高校生のくせにッって、ムカつく気持ちもないではないけど、友達じゃあないんだしね…って、将来夫婦だよっ。


 ついでに、いきなり初対面で裸の付き合いをしてしまった。


 ホント、しょうがない。


 一々、挨拶をしないことを咎めるほど、あたしもコイツに興味があるわけじゃない。


 はあぁ。


 憂鬱な気分で、えらく長大なテーブルの反対側に腰を下ろす。


 間にいったい何人座れるのかというほど距離があるけど、こんなんで一緒に食べる必要がどこにあるんだろうか。


 もっとも、これだけ間があいてりゃ、緊張も何もないからかえっていいのかな。


 給仕係に引かれた椅子に座り、目の前の料理に向き合う。




 「…ねえ、今何年生?どこの学校?」

 「…3年。聖林」




 期待していなかったのに、返事はしてくれた。


 3年生か…ということは17か、18才だろうから、あたしより2、3才年下。


 うへえ。


 今どきの高校生ってこんなにガタイでかいんだ。


 とはいえ、二年前まで高校生だったあたしの学校には、さすがにこんな日本人離れした体格の奴はいなかった。


 大学にだってそうはいない。


 あたしも1/4とはいえ、白人の血が入っている。


 けれど、日本人の血の方が濃かったのか、まあ、平均的な日本人の女の子よりは少し背が高いくらいなもの。


 聖林学園は都内でも有名なお坊ちゃま高校で、けっこう偏差値も高い幼稚舎から大学までの一貫教育校だったはず。


 こいつもこれでけっこう頭いいのかな?


 それとも、噂で聞く裏口入学の口?




 「お前は?」




 つい自分の思考に囚われて、機械的に目の前の料理を捌くのみで相手の言葉を聞きのがした。




 「おい…」 

 「は?」

 「お前は、どこの学校?」

 「……K大」

 「K大?」




 眉根を寄せ、首を傾げている。


 いや、聖林ほど一流校じゃないけど、名前くらいは聞いたことあると思うんですが…。




 「あそこに高等部なんてあったか?」




 そっちですか。


 ガックリ。


 あたしも人のことは言えないけど、こいつもたいがい、人の吊り書き見てないよね。


 こんなんで結婚なんてしていいのか。


 もう今更だ。


 そもそも、相手が高校生なのだとわかってみると、結婚なんて実感として感じていないのかもしれないとも思う。


 この年で親に決められて顔も見たことがない女と結婚!なんてそれこそありえないでしょ。 




 「高校生じゃないよ」

 「は?」

 「大学2年。あたし、今年で20才なの」

 「……嘘だろ?」









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