Sweet Honey Baby
 ひとまず、語学の授業が一段落し、今度は昼食を挟んで、お茶とお花の授業。 


 食堂に行く前に、とりあえず着替えて来いと指示を受け、倒れ込むように自室のベッドへなだれ込む。


 …一々、食事に行くたんびに着替えてられるかっつーの!


 とはいえ、やれと言われればやらざる得ない。


 食事だって言ったって、それもテーブルマナーの授業の一環だ。


 婚約者のお邸だというこの大邸宅に移り住んで半月。


 誰一人、その家主がいないお邸で、教師と使用人たちと暮らして、超ハードスケジュールのお習い事三昧のあたしっていったい…。


 そもそも、その当の婚約者とやらともまだ顔も合わせていない…。


 確か、ここに来る前にその当の婚約者とやらの写真も渡されたと思うけど、どうせ結婚が決まっていることなら、見たってしょうがないと手に触れもしなかった。


 …しまったな。こんなに苦労させられるなら、顔くらい確認しておいても良かったかも。


 特に期待をしてるわけではない。


 とはいえ、とんでもないブ男やオジサンだったりしたら、よけいにテンションが下がりそうな気もする。


 …高望みはしないけどさ、口臭かったり、マザコンだったりするのはちょっとな。


 あ、写真じゃ、そんなことわかんないか!


 吊り書き(身上書)でも、そんなことが書いてあるとは思えない。


 どっちみち、凄まじい口臭の持ち主だろうが、棺桶に片足突っ込んだ爺様だろうが、粛々と貞淑で従順な奥様とやらにならなければならないのは、もはや逃れられない運命のようだ…。




 「絢音ちゃん…上手いこと、逃げたな~」




 まだ見ぬ異父妹を、ちょっぴり恨めしく呟く。


 生粋のお嬢様が駆け落ちって、よっぽどこの結婚に絶望した結果だったのだろうか。


 まあ、駆け落ちってことだから、普通に好きでもない人と結婚したくなかっただけなのかもしれないけど。


 これであたしが結婚や恋愛に夢でも持っていたら、とんだ人身御供が出来上がってたってわけだ。




 「ああ~、いくら三食昼寝付とはいえ、この過密スケジュールが一生続くとしたらやだなあ」




 やたらと見張りみたいなのがいて、不自由だし。


 さすがに、ちょっと早まったかな…。


 軽く後悔が脳裏を横切るも、しょせん適当なB型。


 ま、いっかと、軽く流し、うーんとベッドの上で伸びをする。


 こんな事情じゃなかったら、けっこうウキウキするような状況じゃない?


 天蓋付きのベッドに、お姫様みたいなドレッサー、猫足のサイドテーブルは可愛いし、これでもかってくらいに全部着きれなさそうな枚数の洋服が入ったクローゼット。


 あたしのセンスじゃないけど、悪くない。


 これでここの部屋の主があたしってんじゃなかったら、もっと完璧?


 とりあえず、お腹も空いたし、高級レストランも真っ青の美味しいランチをいただきにまいりましょうか。


 まだ手前の服しか開拓していないクローゼットに手をかけ、開封!




 「あ、このブルーのブラウス可愛い~」









< 3 / 88 >

この作品をシェア

pagetop