Sweet Honey Baby
 こいつったら何してくれんのよ。


 いきなり噴出したと思ったら、咳き込んでいる。


 あたし、そんなに変なこと言ったかな?と多少は申し訳ない気持ちにもなった。


 とりあえず、タオル、タオル。


 サイドテーブルの上におかゆの椀と一緒に置いておいたおしぼりを取って、適当にふとんの上をふき取るけど、本人はまだ咳き込んでいた。




 「…大丈夫?」

 「ゲホッ、ゴホッ…て、てめぇ、よくも噴出させやがったな」

 「な、なによ!それって言いがかりじゃない。なにも変なこと言っていないのに」




 それでも一応は背中も叩いてやる。


 おかゆを作ってあげた上に、こんなこともやってやるなんて、あたしったらなんてお人好しなの。


 自画自賛でなんとか自分を慰め、とりあえず、布団周りを整える。


 まあ、噴出したって言ったってゾウじゃないんだから、大した被害じゃない。


 …コーヒーじゃなくって良かった。




 「…負けたくないんだよ」

 「は?」




 唐突に続けられた言葉にキョトンとする。


 それが先ほどの会話の続きだとわかって、あたしはおかしくなってしまった。


 ホント、負けず嫌い。


 なんなのよ、このガキは。


 最初はずいぶん傲岸不遜な野獣みたいな男だと思ってたのに。


 知れば知っていくだけ、年相応のガキさが見えてきた。


 そういえば、2番の時もあるって言ってたよね。


 それなら、その1番の子に負けたくなくって、いつも1番2番を争っているのだろう。




 「…いい刺激しあえる友達がいて、頑張れるなんてあんたけっこう青春してるんじゃん」




 照れくさそうに笑うのかと思ったのに。


 ニヤリと笑った顔はどこか歪に歪んで、皮肉だった。




 「……なに?」

 「いや。ダチ…とはまあ、そうだな。あいつのおかげで形のないもんと戦わなくて済むからそこはありがたいか。でも俺の優秀さを親父たちに見せつけてやるには、崇史とは別の学校を選ぶんだったかな」




 …自分を優秀とかってよく言う。 


 この顔で、そんなことを言われるとムカつくより感心するのって、凄いことだと思う。




 「そっか、まあ、頑張って」




 あたしには関係ないけど。


 だけど、




 「…おう」




 虚をつかれて驚いたような顔が、次の瞬間には嬉しそうに破顔したのには、あたしの方がまいった。


 やばいでしょ。


 そんな可愛い顔して笑われちゃ。









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