Sweet Honey Baby
淑女か、淫売か
 「へ?パーティ?」




 思わず素っ頓狂な声が出ていた。


 その声に、マナー全般の教育係の教師が眉根をあげた。




 「…あ、いえ、すいません、大きな声を出して。その…どちらだかの創立パーティにあたし、じゃなくって私も参加するんですか?」

 「ええ、旦那様の代理として出席する一也坊ちゃんのパートナーとしてです」




 はあ。


 パーティ!


 なんというか、凄いエグゼクティブとかいう感じ!


 あたしだって、クリスマスパーティや誕生日パーティには友達にお呼ばれしたこともあるけど、そういうのとは全く違うんだろう。


 そのパーティに参加するために、パートナーが必要だとか。


 その上、ドレスを新潮するのはともかくとして、でっかいダイヤ?までついたアクセサリー類まで用意って、どんだけなのよっ!?


 呆れながらも、準備は着々と進んでゆく。


 参加するのはあたしだっていうのに、あたし自身はまな板の鯉状態で。


 色味もドレスのデザインも一也のタキシードに合わせて、財前家のスタイリストが決めてゆく。


 あたし自身も、そういう集まりに参加するのは初めてだし、自分の意思なんか主張するつもりはなかったから、大人しく従ったけど、正直なんだかな、って感じ。










 …それにしてもね。


 七五三かっていうの。


 隣に立って衣装合わせをしている一也を見上げる。


 うーん、さすがに凄いわ。


 あたしなんかは馬子にも衣装ってやつなんだろうけどね。


 スラリとした長身に、小さな頭の乗った8等身の男はモデルみたいに決まってた。




 「…なんだよ?」




 あたしの視線に気が付いた一也が、不機嫌に見下ろして来る。


 不審な声音に、自分が見惚れていたことにようやく気が付いた。




 「あ、いや、似合ってるなと思って」




 正直に言う。


 あたしを見ていた目がパチクリと瞬いて、続いて顔が真っ赤に染まった。


 それがあまりに意外で、ポカンと見守ってしまった。


 おいおい。


 なんなのよ、赤面って。


 初心さの欠片もないような男が、片手で顔を抑えてそっぽを向いてしまっている。


 それをついもの珍しくてマジマジと見つめてしまう。


 するとますます赤くなってきて、なんだか楽しくなってしまった。


 こいつってスレてて、あんまり可愛くないけど、こういうとこは年相応に可愛いところもあるんだな、なんて。


 でも、そう思ったのもつかの間のことで、




 「なんだよ、そっけねぇフリして、俺のことカッコイイって思ってんじゃん」




 わずかに耳元に赤みを残しながら、ニヤリと笑って嘯く。


 その顔を見ていたら、可愛いのは幻想だったな、とちょっとつまらなくなった。




 「ソウダネ、カッコイイネ」




 ちゃんと褒めてやったのに、あまりに棒読みだったのか、




 「なんだ!その気の入ってない、適当な返事はっ!?」




 怒られてしまった。


 面倒臭い奴。


 これで、「いや、単なる客観的意見で、あたしはそうでもないかな」なんていったらムクれるくせにっ!


 可愛いより、ガキな男は厄介だとあたしは溜息をついた。









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