Sweet Honey Baby
 衣装合わせで顔を合わせた俺の婚約者の女にジッと見られた。




 「…なんだよ」




 と尋ねてたら、あっさり、




 「あ、いや、似合ってるなと思って」




 と返された。


 ヤベ、顔がにやける。


 普通でいようと思えば思うだけ、なぜか顔が赤らんでくる。


 たかが女の一言で、何喜んでんだよっ!


 自分に自分で叱咤を入れて、深呼吸で平常心を取り戻す。 


 視線を戻したこいつは、さっきよりマジマジと俺を見てやがった。


 おいっ、こっち見んじゃねぇっ!


 そうは思うのに、それでいてこいつの目に俺の顔が映ってるのがなんだか嬉しい。


 そっけないし、自分からは間違っても会いにきたりはしねぇけど、拒絶している感じでもないんだよな。


 それでも、俺を見ていてもなぜだか、こいつの意識は俺を素通りしている気がして、
時々、無性にイラついて、苛めてやりたくなる。


 …まあ、糠に釘っていうか、俺ががなりたてても、ガンくれてやっても、けっこう平然としてんだよな、この女。


 いったいどういう経験してんだよ、って感じで、おそらく見た目からは想像できない性格してんだよな。


 まだ、知り合ってそんなにたってねぇけど、それはわかる。


 唯々諾々と俺や使用人たちに従ってるから、一見大人しそうだけど、けっこう勝気だって言うのは、俺に対する態度で知れた。


 この女、どうでもいいことは流すけど、自分にとって大事なことは絶対譲らねぇタイプだ。


 我はつえぇくせに、強そうな連中にはおもねる奴らを散々見てきた俺には、そこも新鮮だった。


 女は、やわやわ従順奴より骨がある方が面白い。


 以前の俺は、逆らわれるのは何より嫌いだったんだけどな。


 見惚れているとかそういう艶っぽい視線じゃねぇけど、あんまりいつまでもマジマジ見てやがるから、話の接ぎ穂がなくって、からかってみた。




 「なんだよ、そっけねぇフリして、俺のことカッコイイって思ってんじゃん」




 とたんに呆れた顔になって一言。




 「ソウダネ、カッコイイネ」




 なんだその棒読みはっ!?


 しかも照れもそっけもなく、いかにもはい、言ってやったぞ的な、無機質な言い方は!?


 溜息ついてる女を俺は睨みつけた。









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