Sweet Honey Baby
引きずられるようにして、あっちへこっちへ。
このお邸の家主である会社経営者へと創立ウン十年記念の祝賀を述べるのに始まり、財前家の経営する会社と取引のある人や、付き合いがある家の人、親族その他もろもろの人たちへと挨拶に駆り出された。
その間中、始終ヘラヘラと愛想笑いを浮かべ、
「あら、可愛らしいお嬢さんね。どちらの方?」
と問われるのに名乗り、どういうカンケイなのかと一也に興味津々の目で問いかけてくる相手には、婚約者だと紹介される。
普段、傍若無人できわめてガキ臭い男だけれど、こういうところではさすがに場離れしていて、あたしでもけっこう惚れ惚れとしてしまうくらいにカッコ良かった。
そういえば、そこかしこからかなり痛い視線をいただいてしまっている。
最初は、見慣れぬあたしというニューフェイスへの興味の視線なのかと思ったけど、これだけ大人数の催しで誰が誰だかわかるはずもない。
にもかかわらず、あたし…正確には一也が注目を浴びているのは、この男が、そんなきらびやかな人々の中でも特に注目される地位と、家柄、そして容姿を持っているからなのだと、次第にあたしにもわかってきた。
なんだかすれ違う女の子たちの目がハートになっている気さえする。
きっと年頃のご令嬢たちにとって、一也は特に結婚相手の候補として注目度の高い男性なんだろう。
たかだか高校生のガキ…そう思うには、見た目的にもステータス的にも、そこらの高校生とは格が違い過ぎた。
「なんだよ?ジロジロ見て」
「いや、場馴れしてるなって思って」
「まあ、そりゃあな。こういう場所にはガキの頃から、何かと駆り出されてるからな」
「えー、そうなんだ~」
巷の女性たちが憧れる夢の場所も、実際にいてみるとそれほど良いものではなさそうなのは容易に察せられた。
とにかく、窮屈。
履きなれないハイヒールで足は痛いわ、心にもないお世辞を聞いていてうんざりするわ、美味しいものを食べられないわ。
いかにも美味しそうに並べ立てられた一流シェフの手による色鮮やかな料理の品々も、誰も食べている人がいなかった。
…これ、もしかして本当はレプリカとか?
ちょっとだけ疑ってみるも、通りかかるたびに香るなんとも美味しそうな匂いがしているのだから、そんなはずもない。
飲み物くらいは飲んでるみたいだけど、休みなくこうやって挨拶にくれていると、もう疲れる疲れる。
もうほとんど仕事だ!
て、いうか、きっと仕事なんだろう。
「……お金持ちも、楽じゃないんだね」
「は?お金持ちって、お前んちだって、金持ちの部類だろう」
「…まあ、そりゃそうだけど」
その恩恵に預かったこともなければ、つい最近、ポッと降ってわいたお嬢様な地位なので、ちっともそんな実感はない。
「お前、いったいどういうところで育ったんだよ?上流階級が顔を合わせる社交場で見たことないのはともかくとして、マナーや英才教育くらいフツー受けてくんだろうに。なんで今更、花嫁修業なんだよ。なんか、お前、やたらとパンピー臭いんだよな」
おそらく、前々から疑問には思っていたんだろうけど、それをあたしに問いかけるほどあたしに興味がなかったんだろうね。
いったい、こいつに渡されたあたしの吊書きってどういう風に書かれてるんだか。
思いっきり脚色だらけには違いないんだけど。
「……ん、すごいド田舎の、」
続く言葉に困って、とりあえず一也の言ってきた言葉を繰り返してみた。
「パンピーなおうち?」
「………」
なんでだよ、とか、あるいは嘘つくなよ、とか、いろいろ言いたいことはあったんだろうけど、曖昧にへらへら笑っているあたしに溜息を一つ寄越し、一也は近づいてきた頭髪の寂しい男性へとにこやかに向き直った。
このお邸の家主である会社経営者へと創立ウン十年記念の祝賀を述べるのに始まり、財前家の経営する会社と取引のある人や、付き合いがある家の人、親族その他もろもろの人たちへと挨拶に駆り出された。
その間中、始終ヘラヘラと愛想笑いを浮かべ、
「あら、可愛らしいお嬢さんね。どちらの方?」
と問われるのに名乗り、どういうカンケイなのかと一也に興味津々の目で問いかけてくる相手には、婚約者だと紹介される。
普段、傍若無人できわめてガキ臭い男だけれど、こういうところではさすがに場離れしていて、あたしでもけっこう惚れ惚れとしてしまうくらいにカッコ良かった。
そういえば、そこかしこからかなり痛い視線をいただいてしまっている。
最初は、見慣れぬあたしというニューフェイスへの興味の視線なのかと思ったけど、これだけ大人数の催しで誰が誰だかわかるはずもない。
にもかかわらず、あたし…正確には一也が注目を浴びているのは、この男が、そんなきらびやかな人々の中でも特に注目される地位と、家柄、そして容姿を持っているからなのだと、次第にあたしにもわかってきた。
なんだかすれ違う女の子たちの目がハートになっている気さえする。
きっと年頃のご令嬢たちにとって、一也は特に結婚相手の候補として注目度の高い男性なんだろう。
たかだか高校生のガキ…そう思うには、見た目的にもステータス的にも、そこらの高校生とは格が違い過ぎた。
「なんだよ?ジロジロ見て」
「いや、場馴れしてるなって思って」
「まあ、そりゃあな。こういう場所にはガキの頃から、何かと駆り出されてるからな」
「えー、そうなんだ~」
巷の女性たちが憧れる夢の場所も、実際にいてみるとそれほど良いものではなさそうなのは容易に察せられた。
とにかく、窮屈。
履きなれないハイヒールで足は痛いわ、心にもないお世辞を聞いていてうんざりするわ、美味しいものを食べられないわ。
いかにも美味しそうに並べ立てられた一流シェフの手による色鮮やかな料理の品々も、誰も食べている人がいなかった。
…これ、もしかして本当はレプリカとか?
ちょっとだけ疑ってみるも、通りかかるたびに香るなんとも美味しそうな匂いがしているのだから、そんなはずもない。
飲み物くらいは飲んでるみたいだけど、休みなくこうやって挨拶にくれていると、もう疲れる疲れる。
もうほとんど仕事だ!
て、いうか、きっと仕事なんだろう。
「……お金持ちも、楽じゃないんだね」
「は?お金持ちって、お前んちだって、金持ちの部類だろう」
「…まあ、そりゃそうだけど」
その恩恵に預かったこともなければ、つい最近、ポッと降ってわいたお嬢様な地位なので、ちっともそんな実感はない。
「お前、いったいどういうところで育ったんだよ?上流階級が顔を合わせる社交場で見たことないのはともかくとして、マナーや英才教育くらいフツー受けてくんだろうに。なんで今更、花嫁修業なんだよ。なんか、お前、やたらとパンピー臭いんだよな」
おそらく、前々から疑問には思っていたんだろうけど、それをあたしに問いかけるほどあたしに興味がなかったんだろうね。
いったい、こいつに渡されたあたしの吊書きってどういう風に書かれてるんだか。
思いっきり脚色だらけには違いないんだけど。
「……ん、すごいド田舎の、」
続く言葉に困って、とりあえず一也の言ってきた言葉を繰り返してみた。
「パンピーなおうち?」
「………」
なんでだよ、とか、あるいは嘘つくなよ、とか、いろいろ言いたいことはあったんだろうけど、曖昧にへらへら笑っているあたしに溜息を一つ寄越し、一也は近づいてきた頭髪の寂しい男性へとにこやかに向き直った。