Sweet Honey Baby
 「…ま、こんなもんだろ」




 ヘロヘロなあたしを引きずって挨拶まわりを一通りこなした一也は、それでも気遣いというものを多少は持っていたのか、オレンジジュースをもってきてくれる。


 でも…。




 「どうしてノンアルコールなわけ?」
 



 その問いかけに、アッサリ一言。




 「お前、大トラになりそうだから」

 「………は?」

 「俺、絡む女嫌いなんだよ。あとタバコ吸うやつも最悪。」




 ……。




 「まあ、あたしもタバコは吸わないし、そんなにすごいうわばみってわけでもないよ。でも、悪いけどあたし、けっこうお酒強いから」




 片眉を器用にあげて、「強がってんじゃねぇよ」的な視線に、こいつの女に対する基本認識を知る。


 …きっと、可愛い子ぶりって、コイツの前では「お酒飲めないの~」とかいってしな垂れかかってくるような女しか相手にしてこなかったのだろう。


 女に慣れてる(Hの時の手際)ようなのに、そのくせ妙に初心かったり、不器用に接してくることから、ロクな女と交際してこなかったのが知れた。


 まあ、あたしも対人関係の経験値では、そんなに変わらないかもしれないけどさ。


 そうなんだよね。


 傲慢で我儘な男だけど、実はそんなに嫌な男でもないな、とは最近、思ってきた。


 ちょっと(ちょっとか?)自分勝手で、独善的なだけで、性根はそんなに曲がってるわけではない。


 その証拠に…。




 「どっちにしろ、どうしても飲みたきゃ、あとで邸でいくらでも付き合ってやっから。とりあえず、お前のこと魚の目タカの目であら探ししてる奴らもいんだから、我慢しとけ。やっかみにしたって、いらない揚げ足とられたり、揶揄られたりすんのもバカらしだろ?」

 「……まあね」




 確かに、表面的には可愛らしい、素敵なお嬢さんだ、とか言ってくる相手も、その言葉の中には好意や社交辞令だけではない悪意を込めた眼差しを向けてくる相手がいる。


 主にこいつの結婚相手になりそうな若い娘や、その娘の父親、母親たちだけど、ニューフェイスのあたしに対する意地の悪い興味もそこにはあって、少しでも失態を見せたら後々まで物笑いの種にされそうだ。


 あたし的には別段、なんとでも言ってという感じだけど、一応婚約者の一也や、実家の門倉にしたら我慢ならないことなんだろう。


 あたしの恥は家の恥。


 そこんとこは、一般庶民の永嶋にだってあった感覚だし、わからなくもなかった。


 でも、それだけが理由じゃないっていうのは、時折、失礼な態度をあたしにしてくる相手に対するこいつの態度でわかる。


 あたしを叱るんじゃなくって、相手にぶつけられる敵意や憤慨。


 それって、素直じゃないけどこいつなりのあたしへの好意なんだろう。




 「ま、あともう少ししたらフけるし、挨拶しなきゃならないのも後数人だけだ」

 「え?そうなの?でも、途中でフけるとかってあり?」

 「あり。だいたい最後までなんて、とてもつきあってられっかよ。学生の身だからとかなんとか、適当に言い逃れるから、お前は今までどおり適当に隣で愛想まいておけ」

 「わかった」




 とりあえず、対外的な顔は外面ばっちりみたいな一也に任せておけば間違いない。


 なんだか今日一日、首振りマネキンにでもなった気分だけど、あたしもいずれはこういう世界にも慣れてゆけるんだろうか。


 なんだか、疲れる。


 花嫁修業三昧の日々も嫌だったけど、こういう不慣れなところへと引き出されると、何度か襲ってきた後悔にまた苛まれてしまう。


 クヨクヨしてもしょうがない。


 自分で飛び込んだんだもん。


 やるしかない!




 「…さて、じゃ、次、お前んとこの親に挨拶行くか。さっき、遅れて入ってきたみたいだぜ」









 
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