Sweet Honey Baby
「そ、そう」
他に言いようがない。
けど、よほどこのお坊ちゃまにはあたしが『愛人の子かどうか』というところが重要事項だったらしく、ビッミョーな顔のあたしをよそに、自分の見解を滔々と述べていらっしゃる。
「他人の男や女を盗る奴らなんて、ろくな根性してる奴いねぇし。そんな奴らの子なんて、卑しいもいいところだぜ」
「……」
「だからさ…正直、お前のこと、胸こそわりぃって、な。愛人の子なんか俺んとこによこしやがってとか思った。誤解して、悪かった」
「……」
なんだか、薄ら照れたような微笑みなんか浮かべられちゃって、当の本人は言いたいことだけ言ってすっきりなさったようだけど、あたしの方はと言えば、なんだかムカムカとして、さっきまでぎこちないなりにも作っていた笑顔を作るのも面倒臭くなってしまっていた。
ありていにいえば、こいつにあたしが感じた感情は……幻滅。
デカイ図体と偉そうな態度のわりに、ケツの穴が小さい(失礼!)というか、案外小物だったというか。
まあでも、一般的社会の常識ってやつも、たいがいこういう認識が主流なんだろうけど。
「あたし、非嫡出児なんです!」なんて吹いて回ってるって人を見たことがないしね。
それにしたって…今じゃあ、遠い海外とはいえ、フランスなんかでは、シングルマザーも大流行り。
夫婦別姓(意味違うか)、事実婚だ、世の中は変わってるっていうのに、いつまでも時代錯誤な男だ。
こんなガキに何をわかれとか、あたし自身自分のことを恥ずかしいとか不幸だとか思ったことはなかったし、もちろん卑しいなんて欠片も思ったことはない。
それでも、なんだかこいつにこんな言い方をされたことが、けっこう胸に迫って、どうせ名ばかりの婚約者…将来の夫だと達観してたはずなのに、妙に悔しかった。
「…?おい、聞いてんのか?」
「聞いてるよ。誤解してて、ごめんってやつでしょ」
チラッと上目使いで顔を見上げると、何を誤解してるんだか、整った綺麗な顔を赤くしている。
以前はそれが妙に新鮮で、可愛いかもとかちょっとくらい思っていたこともあったのが嘘のように冷めた気持ちだった。
「お前、お袋に顔そっくりな」
「…そうかな」
「ああ。その目、特別変異か?」
「…まさか、隔世遺伝だよ。たしか、母の曽祖父がロシア人だったかな。帝政ロシアの亡命貴族だとかなんとか言ってたから」
「へえ」
上滑りな会話。
まあ、あたしが体裁だけ保っていれば、あたしの人格なんて興味のないこいつにしてみれば、あたしが今何を感じているかなんてどうでもいっか。
母方の曽祖父がロシア人だったっていうのは本当だけど、だからと言って外国人がみんな金髪碧眼なわけじゃない。
けど、日本人っていうのはみんな白人は金髪碧眼だと思っているから説明は楽で、あたしの場合は父親がアメリカ海兵の私生児だというところまで説明の必要がなくって楽だった。
この正統好きの小僧にしてみれば、あたしこそ生粋の蔑むべき輩の代表格みたいな人間で、本当のことを聞いたら、速攻婚約解消って段取りになるんだろう。
ま、それの方がお互いの為だろうけど。
でもなんだか、不慣れなところを履きなれないハイヒールで歩き回ったせいか、すごく疲れた。
もう一刻も早くお邸に帰って、お風呂に入ってゆっくりと眠りたい。
他に言いようがない。
けど、よほどこのお坊ちゃまにはあたしが『愛人の子かどうか』というところが重要事項だったらしく、ビッミョーな顔のあたしをよそに、自分の見解を滔々と述べていらっしゃる。
「他人の男や女を盗る奴らなんて、ろくな根性してる奴いねぇし。そんな奴らの子なんて、卑しいもいいところだぜ」
「……」
「だからさ…正直、お前のこと、胸こそわりぃって、な。愛人の子なんか俺んとこによこしやがってとか思った。誤解して、悪かった」
「……」
なんだか、薄ら照れたような微笑みなんか浮かべられちゃって、当の本人は言いたいことだけ言ってすっきりなさったようだけど、あたしの方はと言えば、なんだかムカムカとして、さっきまでぎこちないなりにも作っていた笑顔を作るのも面倒臭くなってしまっていた。
ありていにいえば、こいつにあたしが感じた感情は……幻滅。
デカイ図体と偉そうな態度のわりに、ケツの穴が小さい(失礼!)というか、案外小物だったというか。
まあでも、一般的社会の常識ってやつも、たいがいこういう認識が主流なんだろうけど。
「あたし、非嫡出児なんです!」なんて吹いて回ってるって人を見たことがないしね。
それにしたって…今じゃあ、遠い海外とはいえ、フランスなんかでは、シングルマザーも大流行り。
夫婦別姓(意味違うか)、事実婚だ、世の中は変わってるっていうのに、いつまでも時代錯誤な男だ。
こんなガキに何をわかれとか、あたし自身自分のことを恥ずかしいとか不幸だとか思ったことはなかったし、もちろん卑しいなんて欠片も思ったことはない。
それでも、なんだかこいつにこんな言い方をされたことが、けっこう胸に迫って、どうせ名ばかりの婚約者…将来の夫だと達観してたはずなのに、妙に悔しかった。
「…?おい、聞いてんのか?」
「聞いてるよ。誤解してて、ごめんってやつでしょ」
チラッと上目使いで顔を見上げると、何を誤解してるんだか、整った綺麗な顔を赤くしている。
以前はそれが妙に新鮮で、可愛いかもとかちょっとくらい思っていたこともあったのが嘘のように冷めた気持ちだった。
「お前、お袋に顔そっくりな」
「…そうかな」
「ああ。その目、特別変異か?」
「…まさか、隔世遺伝だよ。たしか、母の曽祖父がロシア人だったかな。帝政ロシアの亡命貴族だとかなんとか言ってたから」
「へえ」
上滑りな会話。
まあ、あたしが体裁だけ保っていれば、あたしの人格なんて興味のないこいつにしてみれば、あたしが今何を感じているかなんてどうでもいっか。
母方の曽祖父がロシア人だったっていうのは本当だけど、だからと言って外国人がみんな金髪碧眼なわけじゃない。
けど、日本人っていうのはみんな白人は金髪碧眼だと思っているから説明は楽で、あたしの場合は父親がアメリカ海兵の私生児だというところまで説明の必要がなくって楽だった。
この正統好きの小僧にしてみれば、あたしこそ生粋の蔑むべき輩の代表格みたいな人間で、本当のことを聞いたら、速攻婚約解消って段取りになるんだろう。
ま、それの方がお互いの為だろうけど。
でもなんだか、不慣れなところを履きなれないハイヒールで歩き回ったせいか、すごく疲れた。
もう一刻も早くお邸に帰って、お風呂に入ってゆっくりと眠りたい。