Sweet Honey Baby
 美味しそうな料理の数々を食べることを許されなかったので、仕方なしにジュースをがぶ飲み(お酒くらい飲ませてよ!)したのが悪かったのか、後は帰るだけという段階になって膀胱が悲鳴を上げた。


 …疲れたから、もうお邸帰ってゆっくりしたいんだけど、仕方ないか。


 少し移動しただけでさっそく捕まっている一也に耳打ちする。




 『ね、ちょっとレストルーム行ってくる』

 『あ?さっき、いったばっかじゃねぇかよ』

 『しょうがないでしょ、膀胱の危機はそこでしか回避できないんだから』

 『……』




 呆れたように黙り込んだ一也に手を振り、踵を返した。


 離れ際、横目に映った一也は、またも見知らぬ小父様とお嬢様に捕まっていた。


 …大変だね、お坊ちゃまってやつも。










 便座に座り込むと、大でもないのにすぐには動けなかった。


 と、いうのも…。




 「見た見た?財前様が連れてらした女!」

 「見たわよっ、なによ、あの年増女っ」




 財前様というのは当然、一也のことだよね。


 しかし、年上なのは確かだけど、あたしは花の女子大生。


 『年増女』と言われるほどの年齢じゃない。


 話し声から、3人の女の子たちが、憧れ?の財前様の連れていた女をやり玉にあげようとしているのはわかったけど、そうなるとここから出ずらい。


 …この子たち、一応ここは公共の場なんだから、噂話や陰口は余所でやってくれないかな。


 どこの世界も女ってやつは同じなんだなあ、と妙なことで感心。




 「門倉家の方だって聞いたけど、本当なの?」

 「絢音さんとは全然、顔似てないわよね!」

 「ね~。なんか、特に美人でもないのに顔立ちが派手で、品のない感じの人だったし」

 「ホント、ホント!病弱で、遠縁のところに預けられてたからって言ったって、今まで噂にも聞いたことないわよ」




 まあ、そりゃそうだろうね。


 あたしにとっても、突然降ってわいたような話だし、聞く方だって胡散臭いだろう。


 あたしはいったい、いつまでこうやって便座に座っていればいいのかと、内心溜息をつきながら、もうどうせなら、足も痛いししばらく腰を据えてここで粘る覚悟も決めかけた。




 「あ、蓉子」

 「…みんなここにいたんだ」

 「ええ、それより、蓉子、見た?財前様の婚約者!」




 新たな声の出現に、第4の女?が現れたのがわかったけど、だからといってあたしの状況に変化があるわけでもない。


 お尻寒いから、パンツはせめてあげよう。


 ゴソゴソ。


 しかし、この子たち、さっきから個室の一つが埋まってることに関して何か思わないのかしらねぇ。


 セレブの世界では陰口は普通で、誰に聞かれてもかまわないとでも思ってるとか?


 まあ、あたしが中高生の時もこんな感じだったから、セレブの世界に限らないんだろうけど、こういう場面にまたあたしはよく出くわす。


 群れるのが苦手なあたしは、この仲間ではなく、いつも逆に言われる側で。


 正直、またかよ、て思ってたら、




 「私、あの女、見たことある」




 ……、は?




 「たぶん、元カレの友達のカノジョだった女だわ」
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