Sweet Honey Baby
 幸せ…か。


 まあ、人から見たらそうなんだろうな、とは思う。


 人が羨むようなステータスに、容姿をもった男の婚約者。


 それがたとえ、気持ちの伴わない政略結婚だとしても、この子たちにとっては当たり前のことで、より良い条件、よりハイクラスへの転身が、幸せとされる世界なんだってことはなんとなくわかる。


 でも、そうだね、別に不幸ってわけでもないし。


 この立場になんの期待も抱いていなかったわりに、一也との関係もそれなりに悪いものではなくなってる気がするから、あたしにとっては望外の幸せってやつなのかもしれない。


 なので、




 「ありがとう、おかげさまで」




 にっこり。


 別に嫌味のつもりはなかったのに、凄い目で睨まれた。


 いつものパターンから、どうせこのままここに留まってもロクなことにならないのはわかっていたから、囲まれる前にそそくさとレストルームを抜けだす。


 この性格とは裏腹な派手目の外見と、周りにいた男たちのせいで昔からあたしは女子には目をつけられやすかった。


 これで協調性を重んじられる性格をしていればまだ救いがあったのかもしれないけど、どうも女の子特有の群れるとか、噂話とか嫌いじゃないけどノリ切れなくて男の子と遊んでいる方が気楽だったのが良くなかったんだろうな。


 友達は多い方だったけど、蓉子ちゃんみたいな小ボスタイプにはたいてい嫌われた。


 そして、ああいう子に嫌われるとかなり厄介なのは身に沁みてわかってる。




 「…待ちなさいよ」 




 レストルームから足を何歩も踏み出さないうちに、声がかかる。


 聞こえないフリでさっさとこの窮地から抜け出そうとしたけど、手下(もう手下で間違いないよね)たちがあたしの前へと小走りで回り込んで来て、ガッチリ周りを囲まれてしまった。


 マジですか。


 まさか、こんなところでヤキを入れられるとかないよね?


 姿かたちは皆さん、さすがに飾り立てられ優雅に美しいけど、顔に浮かぶ表情が、もうフツーに苛めっ子。


 内心うんざりしつつ、適当に逃れられるすべはないかと周囲を伺うけど、トイレだけに一也たちがいる大広間からは死角だ。


 使用人たちはいるけど、だからといって主人の客にあたるこの子たちに何を言うこともできないだろう。


 まさか、殴る蹴るの暴行ってこともないだろうしね。


 その方がよっぽど対処の方法は楽なんだけど、精神攻撃が一番面倒臭い。


 あたしも大抵のことは言われ慣れてるし、気にしない方なんだけど、浩介のことだけは言われたくなかった。




 「どうやって、財前家に取り入ったのか知らないけど、あなた、絢音さんの姉だなんて、嘘なんでしょ?」
 
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