Sweet Honey Baby
裸の王様
 「もっと手首を立てて、押し引きで切ってください」




 キイイイィィィ~。




 ひぃっ。


 甲高い音を立てた皿とナイフの立てる擦過音に恐る恐る先生を見上げると、素敵な青筋がこめかみに浮かんで、癇性に引き攣っている。


 先ほどは引きすぎて、宙を飛んだ煮汁が先生のシャツに水玉模様を作った。




 「…音を立てないように」

 「はいっ」




 こりゃ、細切れかっ!?てくらいに小さく切った肉を、楚々と口に運ぶ。


 …食べた気がしない。


 なんだか、もうすでに食欲も半分以上失せて、ああ~もう、フォークでガツッとぶっ刺して口に入れたい。


 というか、日本人なんだから箸でいいじゃん。


 箸使いなら自信あるんだけどと、もう半分以上現実逃避。




 「お嬢様…」




 一段低くなった声音に、ビクリと肩先が揺れる。


 こ、今度は何が?


 と、再び先生の顔を見上げかけ…、




 バンッ!!!




 食堂のドアが乱暴に開かれた。


 今まで一度たりとも、なかった出来事だよ。




 「…おい、俺の女ってそいつ?」




 フォークとナイフを持ったまま、呆然と見上げる。

 日本人離れしたスタイルのやたらとデカイ男が、カツカツとテーブルに歩み寄り、あたしを無表情に見下した。




 「名前」

 「へ?」

 「…お前の名前、なんだっけ?」
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