Sweet Honey Baby
 「あ…」

 「ざ、財前様」 




 後ろから鋭い眼光で女の子たちを一別した一也が、あたしの横に並んできて肩を抱いてくる。


 正直どこまで聞かれていたのかと思うと、なんだか落ち着かない気持ちになったけど、どうせ隠すことなんかなにもない。


 そう思う端から、一也に何か知られたくないというより、浩介の話題をこれ以上ここですることが耐えられなかった。


 不審げな顔があたしを見下し、首を傾げる。




 「…おい、平気か?」

 「え?あ、…うん、なんでもないけど?」

 「顔、青いぞ。気分悪いなら、どっか部屋借りて休んでゆくか?」




 抱き寄せる手が不思議に優しい。


 見せつけるつもりなんかじゃなかったけど、なんだかその手の温もりに癒されたくって、あたしは抱き寄せられるままに寄りかかった。




 「ううん、帰りたい。ちょっと、人混みに酔ったかも。それともまだ残ってなきゃダメかな?」

 「いや、どの道、帰るつもりだったし…。帰ろうぜ」




 グダグダ言わずに、腰を支えて連れ出してくれる力強い腕が今は頼もしい。


 鋭い視線を背中に感じながらも、いまはただ…ここではないどこかへ行きたかった。










 トイレに立って中々戻ってこない連れに痺れを切らし、迎えに行ってみると複数の女たちに囲まれているのを発見した。


 上流階級だ、セレブだなんだと言っても、嫉妬や悪意は普通にあるし、むしろ陰湿だ。


 そういう世界を上手く渡ってゆくのもまた俺たちの生まれながらの能力の一つだったけど、どうみてもあの女はそういう風に世慣れているようには見えなかった。


 …抜けてるっていうわけでもないんだけどな。


 妙に達観してるつーか、年に似合わねぇ冷め方をしてる女だとは思う。


 今までの婚約者たちは俺に夢見て期待して、なんだか知らねぇ幻想を抱いている連中ばっかだった。


 俺の見た目や上辺だけを見て、いったい何がわかるっていうんだ?


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